夏の思い出 2020 9 13

「量子トンネル効果と電子の名前」
 私は、夏が来ると思い出す。
近所の駄菓子屋で、ところてんを食べたことを。
 しかし、子供の私にとっては、美味しいものではなかった。
ところてんを美味しいと感じられるようになったのは、
中年になってからだった。
 今でも、ところてんのみずみずしさは失われていないが、
私の心のみずみずしさは失われてしまった。
 年を取れば取るほど、心の感受性は衰えていく。
何にでも感動した心が、何にでも感動しなくなっていく。
心が硬くなり、老化を知らせる。
 さて、今の若い人は、ところてんの作り方を知らないでしょう。
子供の私は、駄菓子屋の人が、ところてんを作るのをじっと見ていました。
下の図が、ところてんが押し出させる様子を描いたものです。
「e」がところてんです。
左端の「e」を押せば、右端の「e」が出ます。
 言い換えれば、左端の「e」を押す「力」が、
右端の「e」に瞬間的に伝わったと言えるでしょう。
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eeeeeeeeeeeeeeeee
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 eeeeeeeeeeeeeeeee
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 実は、電気の仕組みも似たようなものです。
電子が銅線ケーブルの中を進むのも、ところてんのようなものです。
 意外にも、電子は、金属原子の中を進む時は、遅いのです。
もちろん、電界は瞬時に伝わります。
 ところで、放課後の学校で、校庭には、小高い丘があった。
丘の向こう側までサッカーボールを届けるには、
いつもよりも強い力でボールを蹴らなけばならない。
 たいていは、丘の頂上近くまでボールが届くが、
ボールが戻ってきてしまう。
 大粒の汗が額を伝わる。
「これが最後だ」と思った瞬間、汗が目に入ってしまう。
「しまった。失敗した」
しかし、ボールは突然消えて、丘の向こう側に出現してしまう。
 これが量子トンネル効果というものですが、
サッカーボールのような大きな物質では、
このような現象は起こりません。
電子のような微小サイズで起こるのです。
 しかし、いくら電子でも、幽霊のように、
丘や壁をすり抜けしてしまうのは、不思議です。
 これをところてん方式で説明する学者もいます。
つまり、電子には、一個一個に名前が書いてあるわけではありませんので、
上の図のように、左端から電子が入ると、
右端から電子が押し出されてしまうのだとして、
電子が幽霊のように壁をすり抜けたわけでもないと説明する人もいます。
 いずれにせよ、量子論は、現代の半導体技術の中核であると言ってもよいでしょう。
量子論がなかったら、パソコンもスマートフォンも登場しなかったでしょう。
 「いったい、このような学問は何の役に立つのだ」
量子力学が登場した当時は、そう言われたでしょう。
 あれは、いつだっただろうか。
コーラよりもビールのほうがおいしいと感じられるようになったのは。
いつの間にか大人になって、いつの間にか年老いていく。
 それでも、また夏はやってきて、
ところてんを食べて、「おいしくない」とつぶやく少年が登場する。
こうして、少年の夏の思い出は作られる。


















































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